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希死意無ハウス

多分絵とかクソSSとか作る。

私達の行く先は天ではなかった。

第弐話 人首霊音の場合④

古びた鉛色のアパート。そこが私の"帰るべき"家だった。
玄関前に立った私は、レモンをカッターと同じようにバッグの奥底に押し込み、一息ついた。
これ以上遅く帰っても良いことはない。
私は覚悟を決めて背筋を伸ばした後、目の前のインターホンを鳴らした。
暫くすると、奥からドタドタという苛立ちが溢れ出た足音が聞こえてきた。
──やっぱりそうなるのか。私が学校に行っても行かなくとも。

ドアノブがひねられまず初めに聞こえたのは予想通り、怒気の込められた声だった。
「遅かったじゃない! 何をしていたの!?
 だっからあんたは……!」
「……ごめんなさい、お母さん」
まさか妖精に絡まれていた、などと言うわけにもいかず、私は「ただいま」もいえずに謝ることしかできなかった。
……が、お母さんにはそんな言葉も耳に入っていないようだった。
「早く家に入んなさい!」
私は腕を掴まれあのレモンとバッグのように家に押し込められる。
今日は一体何をするの? そんなことを聞いても母からの返答はなかった。
私がそれ以上何もできず固まっていると、後ろからペシンッと鞭のような音がした。
ベルトの音……? 瞬間的に察知した私は腹をくくり、目を瞑った。
途端、母の持ったベルトが足に思いきり振るわれる。
声を出すと殴られる事が分かっているため、私は声を出すことも出来ず噛んだ下唇からは血が滲む。あまりの痛みに涙が零れ落ちる。
けれども、一向に母の手が弱まることはなかった。
「痛いかもしれないけれどね!
 あんたが帰ってこなくてどれほど心配したと思っているの!
 その気持ちに比べたらこんなものねぇ!」
これは「好意」ではなかった。
母は私を愛さない。…私の「罪」を知っているから。
七度ほど叩かれた頃、私はついに失禁し、罵詈雑言を叩きつけられた。
当たり前だ。私が悪い。帰ってこなくて、あの日にあんなことをした、私が悪い。
ごめんなさい、ごめんなさいと呟いたが勿論赦してもらえず、お母さんはお母さんの気が済むまでベルトを振るい続けた。


人首霊音の場合④

2020/05/01 up
2021/03/03 修正

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